わーちゃんの、ぶらり鑑賞さんぽ

週末にぶらり、美術館や展覧会をおさんぽ鑑賞。わーちゃんの鑑賞記をゆるっとお届けします。

【刺繍―針がすくいだす世界+α@東京都美術館】へ、ぶらり鑑賞!

メインの展覧会にあわせて、同時開催されていた展覧会にも足を運びました。
今回鑑賞したのは、「刺繍」という身近でありながら、どこか奥深い表現に焦点を当てた2つの展示です。

布に針を刺し、糸を重ねるというごくシンプルな行為から生まれる作品は、作り手の時間や記憶、感情を静かにすくい取るような力を持っていました。
ひとつひとつの刺繍に向き合ううちに、「刺繍=装飾」というイメージが大きく変わっていく、そんな鑑賞体験となりました。

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「刺繍―針がすくいだす世界」+αは、どんな企画展?

www.tobikan.jp

本展は、上野アーティストプロジェクト第9弾として開催され、針と糸を用いて布に縫い重ねる「刺繍」という手わざに焦点を当てた展覧会です。刺繍は、つくり手が内面と向き合いながら手を動かす行為であり、安らぎや自己解放、時に救済をもたらすものだとされてきました。同時に、補修や装飾、信仰といった目的のもと、各地の風土や暮らしに根ざして受け継がれてきた営みでもあります。

また、大正末期から現代に至るまで、刺繍や針仕事を通して独自の表現を追求してきた5名の国内作家を紹介します。伝統技法を基盤に革新を試みた作家、日常や記憶を自由なステッチで表現する作家、祈りや時間を糸に託し刺し続ける作家など、その表現は多彩です。

針と糸というシンプルな道具から生まれる「かたち」と向き合うことで、刺繍という行為が持つ意味や可能性をあらためて考える機会となる展覧会です。

企画展名:刺繍―針がすくいだす世界
会期:2025年11月18日(火)~2026年1月8日(木)
開館時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休館日:2025年12月1日(月)、12月15日(月)、12月22日(月)~2026年1月3日(土)、1月5日(月)
入館料:一般 800円 / 65歳以上 500円 / 学生・18歳以下無料
※障害者割引等あり
会場:東京都美術館ギャラリーA・C

 

www.tobikan.jp

東京都江戸東京博物館東京都写真美術館東京都現代美術館の所蔵品から、「刺繍」や「刺子」と呼ばれるような糸・針・布による造形物とそれに関連する資料を、時代ごとに4つの章に分けて紹介します。特別に、女子美術大学工芸専攻研究室が所蔵する明治末~昭和初期の学生たちが制作した「刺繍画」も展示いたします。

企画展名:刺繍がうまれるとき―東京都コレクションにみる日本近現代の糸と針と布による造形
会期:2025年11月18日(火)~2026年1月8日(木)
開館時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休館日:2025年12月1日(月)、12月15日(月)、12月22日(月)~2026年1月3日(土)、1月5日(月)
入館料:無料
会場:東京都美術館ギャラリーB

 

展示構成

平野利太郎さん(ひらの としたろう・1904〜1994)

尾上雅野さん(おのえ まさの・1921〜2002)

岡田美佳さん(1969〜)

伏木庸平さん(ふせぎ ようへい・1985〜)

望月真理さん(1926〜2023)

 

+α:同時開催の展示

第1章:刺繍で飾る·彩る ̶近代の刺繍装飾

第2章:刺繍を学ぶ·習う ̶女子教育・教養・趣味

第3章:刺繍で守る·祈る ̶戦争・災害と〈刺繍〉

第4章:刺繍で想う·考える ̶現代作家と〈刺繍〉

 

印象に残ったTOP3

1:平野利太郎さんの作品

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平野利太郎さんは、近世から続く江戸の刺繍職人の家に生まれ、刺繍にしかできない表現を追い求め続けた作家です。
10代で日本画、20代で古典工芸や染織デザインを学び、伝統を基盤にしながらも独自の表現を切り拓いていきました。

中でも心惹かれたのが、《花と魚菜》という作品です。
円の中に、海鮮や花、野菜が刺繍で配置されており、淡い色合いからはどこか懐かしさが感じられました。
静かでやさしい時間が流れているような、印象に残る一作です。

 

2:岡田美佳さんの作品

岡田美佳さんの作品でまず驚いたのは、刺繍技術の多くをほぼ独学で身につけているという点でした。
生まれつき他者とのコミュニケーションに困難さを抱えながらも、創作の場で豊かな表現を発揮してきた作家です。

作品のイメージは自作の料理、目にした光景や自然の動植物の姿など。

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《お集まりの午後(おしゃべりな午後)》では、かごに入ったパンや食材、積み重ねられた皿、グラスや花などが丁寧に刺繍されています。
これから楽しい食事が始まる直前の、わくわくとした空気感が伝わってくる作品でした。

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《松茸ごはん》では、お米一粒一粒が驚くほど丁寧に刺繍されており、お味噌汁や小鉢との組み合わせも含め、日常の豊かさが感じられます。
松茸ごはんが盛られたお茶碗の美しさも印象的でした。

 

3:望月真理さんの作品

望月真理さんは、大学卒業後に洋裁学校で学び、結婚後は夫の転勤先での暮らしの中で西洋刺繍を始めました。
50歳を過ぎてインド旅行で「カンタ」と出会い、その自由で完璧を求めない手法に深く共鳴します。

96歳で亡くなるまで毎日刺し続けられた作品が展示されていました。

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《一番初めに作ったカンタ》は、私自身「カンタ」という言葉を初めて知るきっかけとなった作品です。
どこか懐かしさを感じる風合いで、生地の質感や刺繍の凹凸まで想像してしまいました。ひとつひとつが丁寧。使用している生地も独特。触ることはできないのですが、でこぼこしてそう。トリや象、何かの動植物が赤や青?色の糸

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《親子四代の思い出》では、茶色の布地に黄色の刺繍が施され、刺繍という形で記憶を残すことの美しさに心を打たれました。
写真とは異なる、時間や想いが折り重なるような記録の方法に、深い魅力を感じます。

私自身こどものころに書いた絵を思い出しました。あの頃がなつかしい

 

 

総合評価:★★★★★

メイン展示と同時開催展示、どちらもじっくりと楽しむことができ、刺繍という表現の幅広さと奥行きを実感できる展覧会でした。
同じ「針と糸」を使っていても、作家ごとにまったく異なる世界が立ち上がることに驚かされます。

過去の刺繍があり、現在へと受け継がれてきた刺繍がある。
時間を超えて連なっていく人の営みや記憶に触れるような、静かであたたかい余韻の残る鑑賞体験でした。

 

【ウィーン・スタイルビーダーマイヤーと世紀末@パナソニック汐留美術館】へ、ぶらり鑑賞!

19世紀ウィーンで育まれた、静かで誠実なデザインと、世紀末に花開いた華やかな装飾芸術。
「ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末」は、一見対照的に見える二つの時代を、工芸とデザインという視点からつなぎ直す展覧会です。

銀器やガラス、家具、ジュエリー、ドレスといった身近な造形を通して浮かび上がるのは、時代を超えて受け継がれた「暮らしの美意識」。
ミニマルなかたちに宿る静かな豊かさと、遊び心あふれる装飾の世界を、空間構成と対比によって味わうことができます。

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「ウィーン・スタイルビーダーマイヤーと世紀末」は、どんな企画展?

panasonic.co.jp

ウィーン世紀末とビーダーマイヤー時代、二つの時代の工芸とデザインを、銀器、陶磁器、ガラス、ジュエリー、ドレス、家具などを通してご紹介します。「ミニマルな形態」と「遊び心に満ちた装飾」という対照的な特徴がともにみられる、共通性のある両時代のモダンなスタイルを、対比や空間構成でお目にかけます。

さらに、華麗な装飾のウィーン工房の作品群や、クリムトによる素描作品の展示、また女性の活躍にも注目しながら多面的なウィーン文化の魅力をお届けします。

企画展名:ウィーン・スタイルビーダーマイヤーと世紀末
会期:2025年10月4日(土) - 12月17日(水)
開館時間:午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日(ただし12月17日は開館)
入館料:一般:1,500円、65歳以上:1,400円、大学生・高校生:1,000円、中学生以下:無料
※障害者割引等あり
会場:パナソニック留美術館

 

展示構成

 第1章 ビーダーマイヤー─ミニマルなかたちに宿る宇宙の雛形、日常を彩る劇場的な装飾
第2章 「総合芸術」、二つの時代─ビーダーマイヤーとウィーン・スタイル
第3章 ウィーン世紀末とウィーン工房─暮らしと時代をリードした女性たち
第4章 ウィーン・エコーズ─「ウィーン・スタイル」の継承と共鳴

 

印象に残ったTOP3

第1章展示作品

ビーダーマイヤーは、過去の様式をなぞったものではなく、人々の意思によって形づくられた新しいスタイルでした。

近代的な住文化の出発点ともいえるこの時代には、手工芸においても実用性と簡素さ、そして誠実さを大切にした作品が生み出されていきます。

 

銀食器は食卓を彩る実用品であると同時に、持ち主の控えめな富や趣味の良さを示す存在。過度な装飾を避け、最小限の表面装飾にとどめた造形からは、静かな品格が感じられます。

 

ヤーコブ・クラウタウアー《ティーポット》は、本体に施された格子模様と木製の持ち手が印象的で、機能性の中に洗練されたデザイン性が光る作品でした。

背もたれを大胆にカットした《椅子》は、ビーダーマイヤーらしい簡潔な造形の中に、黄色い座面という遊び心が添えられています。
座る人の気分まで明るくしてくれそうな一脚でした。

 

第2章「総合芸術」、二つの時代の展示作品

第2章では、19世紀前半のビーダーマイヤー作品と、20世紀初頭のウィーン工房やロブマイヤーの作品が並置され、時代を超えた造形の連続性が示されていました。

ウィーン世紀末のデザイナーたちは、ビーダーマイヤーの造形を単に模倣したのではなく、自国の文化的記憶を新しい感性と技術によって再解釈し、「ウィーン・スタイル」という独自の様式を生み出していきます。

1807年制作のキャセロール鍋と、1907年制作のグラーッシュ用皿を見比べると、用途や安定感のある形態が時代を超えて受け継がれていることがよくわかります。

 

第3章 ウィーン世紀末とウィーン工房

第3章では、暮らしと時代をリードした女性たちの存在に光が当てられていました。

男性中心とされがちな文化の中で、批評家・ジャーナリストのベルタ・ツッカーカンドル、ファッション改革を進めたエミーリエ・フレーゲ、ウィーン工房を支えたオイゲニア・プリマヴェージといった女性たちが重要な役割を果たしていたことが紹介されます。

1928年、ウィーン工房創設25周年の際には、女性たちの活動が公式に称えられ、ヨーゼフ・ホフマンやモーザーとともに肖像写真が雑誌に掲載されました。
女性たちの活躍なくして、工房の発展は語れなかったことが強く印象づけられます。

 

総合評価:★★★☆☆

ビーダーマイヤーとウィーン世紀末という二つの時代を並べて見ることで、「モダン」とは何かをあらためて考えさせられる展覧会でした。
装飾を削ぎ落とした誠実なかたちも、華やかさを極めた装飾も、どちらも暮らしをよりよくしようとする強い意思から生まれていることが、作品を通して伝わってきます。

特に印象的だったのは、女性たちの存在が文化や工房を支え、時代を前に進めていた点です。
工芸やデザインを「過去の様式」としてではなく、「生きた文化」として体感できる、知的な刺激に満ちた構成でした。

 

【大絶滅展―生命史のビッグファイブ@国立科学博物館】へ、ぶらり鑑賞!

地球の歴史を振り返ると、生命は決して一直線に進化してきたわけではなく、「大量絶滅」という危機が約40億年のあいだに訪れてきた地球。

「大絶滅展―生命史のビッグファイブ」は、絶滅は終わりではなく、次の繁栄への始まりでもあった――そんな視点で見る展示は、私たち人類の存在についても考えさせられる内容でした。

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「大絶滅展―生命史のビッグファイブ」は、どんな特別展?

daizetsumetsu.jp

生命が誕生してから40億年、地球上では幾度も生命の危機が訪れました。しかし生命は、危機を乗り越え、絶滅したグループに代わるグループが新たに繁栄することを繰り返すことで、多様に進化を遂げてきました。

言わば、大量絶滅は生命の繁栄を促した現象だと捉えることもできるのです。本展では、その中でも規模の大きかった5回の「大量絶滅」事変(通称「ビッグファイブ」)を、化石や岩石に残された様々な証拠から紐解き、「生き物たち」の生存をかけた進化の歴史を辿ります。

特別展名:大絶滅展―生命史のビッグファイブ
会期:2025年11月1日(土)~2026年2月23日(月・祝)
開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日、11月4日(火)、11月25日(火)、12月28日(日)~2026年1月1日(木)、1月13日(火)
ただし、11月3日(月・祝)、11月24日(月・休)、1月12日(月・祝)、2月16日(月)、2月23日(月・祝)は開館
入館料:一般・大学生:2,300円、小・中・高校生:600円
※障害者割引等あり
会場:国立科学博物館

 

展示構成

EPISODE1:O-S境界。海の環境の多様化(約4億4400万年前)

EPISODE2:F-F境界。陸上生態系の発展(約3億8000万年前~約3億6000万年前

EPISODE3:P-T境界。史上最大の絶滅(約2億5200万年前

EPISODE4:T-J境界。恐竜の時代への大変革(約2億100万年前

EPISODE5:K-Pg境界。中生代の終焉(約6600万年前

EPISODE6:新生代に起きた生物の多様化

 

印象に残ったTOP3

EPISODE1に展示されていたもの

最初の大量絶滅事変では、海の生態系に大きな変化が起こりました。
会場には、アノマロカリス(レプリカ)やエーギロカシス、アクティラムス(レプリカ)といった、当時の海を象徴する生物が展示されています。

展示を見てまず驚かされたのは、多くの生物が全長2メートルを超える巨大さだったことです。

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アノマロカリスはラディオドンタ類に分類される節足動物の仲間で、カンブリア紀に特に繁栄しました。
近年では世界各地から複数種が発見されており、今後の研究の進展にも期待が高まります。

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エーギロカシスも同じくラディオドンタ類に属し、プランクトンの量や多様性が増加したことで、こうした大型のろ過食性生物が登場したと考えられています。

 

EPISODE5に展示されていたもの

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5つ目の大量絶滅では、小惑星の衝突によって恐竜をはじめとする中生代型生物が姿を消しました。

会場には、ティラノサウルストリケラトプスといった、誰もが知る代表的な恐竜のレプリカが展示されており、その迫力は圧巻です。

レプリカでありながら、実物大のスケール感と存在感には思わず圧倒されました。

ティラノサウルス白亜紀末期に北アメリカ大陸に生息していた大型肉食恐竜で、全長は最大約13メートル。
強力な顎と鋭い歯を持ち、他の恐竜の骨を噛み砕いていたと考えられています。

ほかにも、アメリカのデンバー自然科学博物館から貴重な標本が展示されていて、どれも初めて見るものばかりでした。

 

EPISODE6に展示されていたもの

新生代には大規模な大量絶滅は起こらなかったものの、寒冷化や乾燥化といった激しい気候変動により、生物相は大きく変化しました。

この章で特に目を引いたのが、「ステラーダイカイギュウ」の化石です。

ステラーダイカイギュウは、かつて北太平洋に生息していた海藻食の大型哺乳類で、展示されている化石は世界最古のものとされています。

ジュゴン科に属する生物であることからも、その巨体ぶりがうかがえ、当時の海洋環境の豊かさを想像させる展示でした。

 

総合評価:★★★★☆

「大量絶滅」という言葉から想像する悲劇的な印象とは裏腹に、本展は生命のしぶとさと適応力を強く感じさせる構成でした。
絶滅によって失われたものと、その後に生まれた新たな繁栄を並べて見ることで、生命史が常に変化の連続であることが実感できます。

巨大生物の迫力ある展示から、化石が語る静かな証拠まで、見どころは多岐にわたり、子どもから大人まで楽しみながら学べる内容でした。
「今を生きる私たちも、生命史の一部である」という気づきを与えてくれる、非常に満足度の高い特別展です。

 

【オルセー美術館所蔵 印象派 室内をめぐる物語@国立西洋美術館】へ、ぶらり鑑賞!

印象派と聞いてまず思い浮かぶのは、戸外の光や揺らぐ空気をとらえた風景画かもしれません。
しかし彼らが見つめていたのは、外の世界だけではありませんでした。
家族と過ごす居間、静かに思索にふける書斎、窓辺から差し込むやわらかな光——
本展は、印象派の画家たちが描いた「室内」という親密な空間を通して、19世紀パリの暮らしと感情の機微をたどる展覧会です。

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オルセー美術館所蔵 印象派 室内をめぐる物語」は、どんな企画展?

www.orsay2025.jp

印象派といえば光や空気をとらえた風景画が思い浮かびますが、彼らは都市生活のなかで私的な室内空間も大切なテーマとして描きました。ドガは室内の人物を鋭く観察し、ルノワールは穏やかな光と親密さあふれる室内画を多数残しています。印象派の画家たちは絵画だけでなく、室内を飾る装飾作品にも取り組みました。


本展ではパリ・オルセー美術館の傑作を中心に約100点の作品を展示し、約10年ぶりの来日となるコレクションやドガの代表作《家族の肖像(ベレッリ家)》の初来日も見どころです。マネやモネ、セザンヌピサロ、モリゾらの名作とともに、印象派の新たな魅力をお楽しみください。

企画展名:オルセー美術館所蔵 印象派 室内をめぐる物語
会期:2025年10月25日[土]-2026年2月15日[日]
開館時間:19:30~17:30(金・土曜日は~20:00)
休館日:月曜日、11月4日[火]、11月25日[火]、12月28日[日]-2026年1月1日[木・祝]、1月13日[火](ただし、11月3日[月・祝]、11月24日[月・休]、1月12日[月・祝]、2月9日[月]は開館)
入館料:一般2,300円、大学生1,400円、高校生1,000円
※障害者割引等あり
会場:国立西洋美術館 企画展示室

 

展示構成

1:室内の肖像—創作の空間で/モデルを映し出す部屋で
2:日常の情景—気晴らし、夢想、親密さ
3:室内の外光と自然—取り込まれる風景、植物
4:印象派の装飾—室内への新しいまなざし

 

印象に残ったTOP3

1章「室内の肖像」と2章「日常の情景」から

肖像画において、室内は単なる背景ではなく、その人物の個性や社会的立場を雄弁に語る存在として描かれていました。
調度品や壁に掛けられた絵画は、富や階級、職業、さらには価値観までもを映し出しています。

マネ《エミール・ゾラ

1章-1:「投影された「富、階級、職業」」に展示作品

エドゥアール・マネエミール・ゾラ》は、小説家であり美術批評家でもあったゾラの知的関心が、室内空間そのものに表れています。
背後に飾られた日本美術やマネ自身の作品は、彼が支持した芸術と思想を雄弁に物語っていました。

ルノワール《ピアノを弾く少女たち》

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2章-1:「家でのくつろぎ ―休息、娯楽、手仕事」に展示作品

ルノワール《ピアノを弾く少女たち》では、外界から切り離された私的な空間の穏やかさが際立ちます。
当時の上流家庭における女性の嗜みとしての音楽に焦点があてられ、やわらかな光とともに描かれ、親密で安心感のある室内の空気が伝わってきました。

 

3章「室内と外光」から2作品

3章では、室内と屋外の境界がゆるやかに溶け合う表現が印象的でした。
バルコニーやテラス、温室といった移行空間を通して、自然や外光が室内へと取り込まれ、閉ざされた空間に呼吸するような広がりが生まれています。

アルベール・バルトロメ《温室の中で》

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3章-1:「内と外の交わり—テラス、バルコニー、温室、花々」の展示作品

ガラス戸を開け、明るい戸外からほの暗い温室へと足を踏み入れる画家の妻。

室内と室外のガラス戸を移動する美しい女性はもちろんのこと、内と外の植物の対比が印象的。

ジャポニズムを感じる皿など

3章-2部目「ジャポニスム —装飾としての自然」の展示作品

江戸から明治期の浮世絵に着想を得た装飾表現が紹介されていました。
歌川国芳歌川広重の構図やモチーフは、自然を「装飾」として室内に取り込むための重要なヒントとなっていたことがうかがえます。

 

4章「印象派の装飾」から

かつては絵画や彫刻より低位に見なされていた装飾芸術も、19世紀末にはその価値観が大きく揺らぎ始めます。
印象派の画家たちは、壁面装飾を通して室内と屋外の境界を取り払い、光や風景に満ちた空間そのものを創り出そうとしました。

モネ《睡蓮》


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4章-2:「屋内の風景、あるいは内なる風景」の展示作品

はじめ邸宅の室内装飾を想定していた「睡蓮」の連作。やがて公共建築を舞台とする「大装飾画」プロジェクトへと発展し、オランジュリー美術館の「睡蓮の間」へと結実。室内装飾でこの大作はすごいと思いました!

 

総合評価:★★★★☆

屋外制作によって革新をもたらした印象派が、同時にこれほどまで豊かな「室内の表現」を残していたことに、あらためて驚かされる展覧会でした。
肖像画に映し出される社会的立場や個性、日常のひとときに漂う親密さ、そして室内へと取り込まれる自然や装飾——
それらは単なる背景ではなく、画家たちの視線や価値観そのものを映す舞台でした。

風景画とは異なる距離感で描かれた人物や空間に目を向けることで、印象派の作品がより身近で、私的なものとして感じられる。
「室内」という切り口が、印象派の新たな魅力を静かに開いてくれる、見応えのある構成でした。

 

【もてなす美 ― 能と茶のつどい@泉屋博古館】へ、ぶらり鑑賞!

能装束というと、金糸をふんだんに用いた豪華絢爛な唐織や厚板を思い浮かべがちですが、本展で出会えるのは「演じるための装束」として、実際に用いられてきた住友コレクションの能装束です。

平日の閉館1時間前に訪れたにもかかわらず、会場には10〜20名ほどの鑑賞者がいて、静かながらも関心の高さが感じられました。
華やかさよりも、落ち着きと品格をまとった狩衣や長絹。そこには、舞台の上で息づいてきた時間と、もてなしの場を彩ってきた美意識が確かに残されていました。

早速、印象に残った展示を紹介していきたいと思います。

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「もてなす美 ― 能と茶のつどい」は、どんな展覧会?

sen-oku.or.jp

室町時代観阿弥世阿弥父子によって大成された能は、江戸時代には幕府の式楽として重んじられ、武家の教養として受け継がれてきました。住友家十五代当主・住友春翠は能を深く愛し、招宴の際には余興として能が演じられ、ときには自身が舞や謡を披露することもありました。こうしたもてなしの場で用いられた能面や装束、茶の湯の道具は、住友家の美意識と交流のあり方を今に伝えています。

展覧会名:もてなす美 ― 能と茶のつどい
会期:2025年11月22日(土)~ 12月21日(日)
開館時間:10:00〜19:00(入館は18:30まで)
休館日:月曜日(11/24は開館)、11月25日(火)
入館料:一般1,200円 学生600円 18歳以下無料
※障害者割引等あり
会場:泉屋博古館

 

展示構成

第Ⅰ章  謡い、舞い、演じるために―住友コレクションの能装束 [展示室①]

 第Ⅱ章 もてなす「能」―住友家の演能と大西亮太郎ゆかりの能道具 [展示室②]

 第III章 茶の湯の友―春翠と亮太郎 [展示室③]

特集展示 染・織・刺繡をいろどる金属、そして新たな可能性 [展示室④]

 

印象に残ったTOP3

1:展示室1の衣装

展示室1は本企画展で唯一の撮影可能エリア。

茶地変蜀江模様厚板(ちゃじ かわりしょっこうもようあついた)


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蜀江模様とは、中国・歯の首都を流れる河の周辺で織られた歯錦に、八角形と四角形を組み合わせた模様のこと。

龍や輸宝を入れた木瓜形を八角形に、それをつなぐ唐花を四角形に見立て変江としています。

🐉精緻でありながら、どこか愛嬌のある龍の表情が印象的でした。

 

・紺地若松笹模様袷狩衣(こんじわか まつささよう あわせかり ぎぬ)


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紺色の地に平金糸で若松と笹が表され、生地の落ち着いた色合いと相まって、非常に洗練された印象の狩衣です。
模様の配置にも動きがあり、静と動がほどよく調和した装束だと感じました。

 

2:展示室2の道具達

能は武士だけの嗜みではなく、商人の嗜みとしても普及し、稽古に勤む家もちらほらと出てきた中、住友家もそのうちの一つ。

展示室2には能で使用する小道具、楽器が展示されていて、特に印象に残った能面を紹介します。

能の道具や能面を、これほどじっくり鑑賞したのは初めてかもしれません。

孫次郎

孫次郎が若くして亡くなった妻の面影写して作ったとされる能面。説明を読んだうえで見つめると、これまで怖いと感じていた表情が、不思議と哀しみを帯びたものに見えてきました。

こめかみあたりから髪の毛が2→4本に分かれているのが特徴。

三光尉(さんこうじょう)

庶民の老人に広く用いられる能面。額の五本のしわや、鼻の下、植毛ひげ。口の上下の歯と言ったものが特徴的なもの。両頬にも深い皺があり、額や頬に刻まれた深い皺からは、長い人生の苦労がにじみ出ているように感じられました。

・妙作尉(みょうさくじょう)

独特な彩色。長い顎髭。強く恐ろしげな老人あらわす、「あくじょう」の類とされている能面。

口元の開き方も相まって、今にも叱責されそうな迫力があり、強烈な存在感を放つ能面でした。

 

3:展示室3の茶道具類

能とともに、茶の湯もまた住友家にとって欠かせない嗜みでした。

展示室3では、茶道具のなかから茶会で用いられたものが展示されていました。

このうちの3点を紹介します。

 

補足:正式な茶会の進行・構成

よりつき(寄付):待合室。

こしかけ(腰掛待合):休憩所。

しょざ(初座):茶室に最初に入る場面。

ちゃにつ・かおり(茶入・香):茶入(濃茶用の器)の拝見や、香の趣向を楽しむ場面。

なかだち(中立):一度退室。

ごいり(後入り):中立の後、客が再び茶室に入ること。濃いお茶振る舞い

ひろま(広間):薄いお茶。一人一碗ずつ点てられる、和やかな締めくくり。

 

天明日の丸釜 銘 時津風

茶席の中心とされている釜。一見無文のように見えますが、かすかな樹木と見られる地文がみられます。むしぐい大小意図的な穴は秋の夜に泣く虫の音を忍ばせるものだとか。小さな穴から虫の音を想起させるという発想に、自分では到底思い至らず、茶の湯の感性の奥深さを感じました。


霰蒲団釜

霰とは、釜肌の装飾技法の一つで、細かな突起を浮き出させたもの。当時の茶会で、暮れ行く秋を惜しみ、冬の訪れを告げる道具の一つといて使用されたものだそうです。

実際に持ち上げることはできませんが、見た目からもずっしりとした重量感が伝わってきます。

「ふとんがま」で検索するといいお値段の釜が検索結果として表示され驚きました🫢

 

・ 白鷹捕鴨図

当時の茶会で何との組み合わせだったのか忘れてしまったのですが、厳しい寒さの冬を超え、豊かな繁栄をもたらす春への期待が込められたもの。

真っ白な鷹の姿がなんとも凛としていて美しい作品。茶会では、道具だけでなく、このような絵画作品も含めて場全体が構成されることを、改めて知ることができました。

 

総合評価:★★★★☆

本展は、能と茶の湯という二つの芸能を通して、住友家が育んできた「もてなしの美」を静かに体感できる展覧会でした。
鑑賞用ではなく、実際に使われてきた能装束や道具だからこそ、華やかさの裏にある実用性や、長く受け継がれてきた時間の重みが伝わってきます。

舞うため、謡うため、客を迎えるために選ばれた一つひとつの品からは、形式を超えた人と人との交流が感じられました。
派手さはなくとも、奥行きのある美意識に触れられる、余韻の深い企画展でした。

 

 

【ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢@東京都美術館】へ、ぶらり鑑賞!

死後に評価された画家、フィンセント・ファン・ゴッホ
その名声の裏には、弟テオと妻ヨー、そして次の世代へと受け継がれた「家族の献身」がありました。

本展「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ゴッホ家が守り抜いてきたファミリー・コレクションを通して、作品だけでなく、画家の人生と願いがどのように未来へ託されてきたのかをたどる展覧会です。
混雑する会場からも、ゴッホが今なお多くの人を惹きつけ続けていることが実感できました。

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ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、どんな企画展?

www.tobikan.jp

フィンセント・ファン・ゴッホの作品は、弟テオとその妻ヨー、そして次の世代へと受け継がれ、家族の尽力によって今日まで伝えられてきました。本展は、そうしたファミリー・コレクションに焦点を当て、画家の作品と夢の継承をたどります。

展覧会名:ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢
会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日)
開館時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休館日:月曜日、9月16日(火)、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
入館料:当日券 一般 2,300円(2,100円)/ 大学生・専門学校生 1,300円(1,100円)/ 65歳以上 1,600円(1,400円)
※障害者割引等あり
会場:東京都美術館 企画展示室

 

展示構成

第1章:ファン・ゴッホ家のコレクションからファン・ゴッホ美術館へ

第2章:フィンセントとテオ、ファン・ゴッホ兄弟のコレクション

第3章:フィンセント・ファン・ゴッホの絵画と素描

第4章:ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルが売却した絵画

第5章:コレクションの充実 作品収集

 

印象に残ったTOP3

1:第2章展示作品(浮世絵)

兄弟が集めたコレクションは、当時の空気感を伝えるだけでなく、フィンセントの芸術を理解するうえで欠かせない存在でした。
なかでも心を惹かれたのが、フィンセント自身が熱心に収集していた浮世絵と、その影響が色濃く表れた作品群です。

500点を超える浮世絵を集め、アルルではそれらをアトリエに飾っていたというエピソードからも、彼がどれほど日本美術に魅了されていたかが伝わってきます。
ミレーの《種まく人》をもとに描かれた作品では、力強い筆致に加え、手前の木や月の配置などに浮世絵的な構図が感じられ、ゴッホ独自の表現へと昇華されているように思いました。

 

2:自画像

パリ時代に描かれたこの自画像は、解説を読む前と後で印象が大きく変わった作品です。
最初はどこか明るさを感じ、病を抱えていたとは思えませんでしたが、「生気がなく、こわばった表情」と本人が記した言葉を知ると、背後から差す光や、わずかに沈んだ服の色、黒く見える瞳までもが意味を帯びて見えてきました。

画家自身の内面を知ることで、作品の表情が静かに変化する——そんな体験が印象に残りました。

 

3:イマーシブコーナー


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「100年後を生きる人々にも自分の絵を観てもらいたい」と願っていたファン・ゴッホ。この願いをイマーシブアートという形で実現された空間が最後の展示室で鑑賞できます。

特に良かったのが「アーモンドの木」

心の病で36歳でレミの療養院へ入った際に制作されたもの。同時期には、糸杉シリーズやオリーブ園の作品も制作しています。

ある日、テオとヨーに息子ができたという知らせが入り、その中には

「兄のように決断力と勇気ある子に育ってほしい。」と記されていたそうで、ファン・ゴッホはお祝いに花咲くアーモンドの木の枝。を送ったという経緯。

この経緯を知り、作品の見方がだいぶ変わりました。愛する弟とその妻、そして生まれたばかりの新たな命に対するゴッホの深い愛情。青空の元花開くアーモンドの花の祝福が輝いて見えました。

 

総合評価:★★★★★

フィンセント・ファン・ゴッホは、自身の作品が人々の心に安らぎをもたらすことを願いながら絵を描き続けました。
その想いを支え、作品の大半を守り続けたのが弟テオでしたが、兄の死からわずか半年後に彼もこの世を去ります。

残された妻ヨーは、義兄ゴッホの作品を世に伝えることに人生を捧げました。展覧会の開催や作品の紹介に尽力し、その評価を確かなものにした存在です。

27歳で画家になる決意をし、37歳で生涯を閉じたゴッホ
オランダ時代の暗い色調から、パリ、アルルを経て確立された鮮やかな画風、そして晩年のオーヴェールで描かれた数々の作品には、世界を見つめ続けた彼のまなざしが感じられます。

 

本展を通して強く感じたのは、ゴッホの作品が今日ここにあるのは、決して一人の天才の力だけではなかったということです。
弟テオの支え、そして妻ヨーの粘り強い行動、その想いを引き継いだ次世代——誰か一人でも欠けていたら、私たちはこれほど多くのゴッホ作品と出会うことはできなかったでしょう。

色彩や筆致の魅力はもちろんのこと、家族の物語を知ったうえで作品を見ることで、絵画はより深く、あたたかなものとして心に残りました。
切なさと希望が静かに重なり合う、忘れがたい展覧会です。

 

【モーリス・ユトリロ展@SOMPO美術館】へ、ぶらり鑑賞!

SOMPO美術館で開催していたの「モーリス・ユトリロ展」は、20世紀初頭のパリ、とりわけモンマルトルを愛した画家ユトリロの人生と画業を、代表作とともにたどる展覧会です。
白を基調とした詩情あふれる街の表情から、晩年の鮮やかな色彩表現まで——その変遷を追うことで、ユトリロという画家の内面と向き合うような時間を過ごすことができました。

今回は、展示の中でも特に印象に残った作品を中心に、その魅力を振り返っていきます。


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「モーリス・ユトリロ展」は、どんな展覧会?

www.sompo-museum.org

20世紀初頭のパリの街並みを描いたことで知られる風景画家モーリス・ユトリロ(1883–1955)は、生まれ育ったモンマルトルや暮らした郊外の風景を数多くの油彩画に残しました。画家としての歩みには、母シュザンヌ・ヴァラドン(1865–1938)をはじめとする家族との複雑な関係や、幼少期からのアルコール依存といった要素が絡み合い、独自の世界観を築き上げています。波乱に満ちた人生を送りながらも、20世紀前半の美術界を席巻したこのエコール・ド・パリの画家は、とりわけ日本において現在もなお根強い人気を誇っています。
 本展は、フランス国立近代美術館(ポンピドゥセンター)の協力のもと、同館所蔵の《モンマニーの屋根》(1906–07年頃)や《ラパン・アジル》(1910年)を含む作品約70点と、アーカイヴを管理するユトリロ協会から提供された資料を通して、その全貌に迫ります。アルコール依存症の治療の一環として絵筆をとった「モンマニー時代」、さまざまな素材を用いて白壁の詩情を描き出した「白の時代」、そして鮮やかな色彩を駆使した「色彩の時代」をたどりながら、ユトリロが確立した唯一無二の様式と、彼が愛した風景の詩情を感じていただける展覧会です。

企画展名:モーリス・ユトリロ
会期:2025.09.20(土)- 12.14(日)
開館時間:10:00 - 18:00(金曜日は20:00まで)
休館日:月曜日
入館料:一般(26歳以上)1,800円、25歳以下    1,200円
※障害者割引等あり
会場:SOMPO美術館

 

展示構成

第1章:モンマニー時代

第2章:白の時代

第3章:色彩の時代

収蔵品コーナー:ひまわり

 

印象に残ったTOP3

1:サノワ製粉場

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深緑の木々と白い建物のあいだに、オレンジ色の三角屋根をもつ製粉所の塔が印象的に描かれています。

サノワで比較的穏やかな入院生活を送っていた時期の作品とされ、塔を見上げる小さな人物像が描き込まれているものの、画面全体には静かな空気が漂っています。

建物・道・青空・木々がそれぞれ対照的に配置されながらも、不思議と調和が保たれている点が印象に残りました。

 

2:マルカデ通り

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ゆるやかに下る通りの形状に沿って、左側の建物の一階部分もリズムを刻むように段差が描かれています。

マルカデ通りはパリ18区に位置し、かつて中世の定期市(ラテン語の marcadus)に由来して名付けられた通りだそうです。

画面には「COMPTOIR(カウンター)」「VINS・LIQUEUR(ワイン・リキュール)」など、酒や食事に関する看板文字が多く描かれており、アルコール依存と向き合っていたユトリロの人生と重ねて見てしまいました。

 

3:3章、色彩の時代に描かれた作品

硬い輪郭線と鮮やかな色彩が際立つ作品のなかから、2点ほど

 

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1:モンマルトルのミミニパンソンの家とサクレ=クール寺院、モン=スニ通り(モンマルトルのサクレ=クール寺院)

分厚い輪郭線で縁取られた色面と、チューブから直接絞り出したかのような鮮烈な色彩によって、現実の風景でありながら、どこか夢の中のような都市景観が生み出されています。

遠景に描かれたサクレ=クール寺院の白が際立ち、色彩の強さの中に静謐さも感じられる一作でした。

 

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2:雪のヴェジネ、聖ポリーヌ教会

ネオ・ゴシック様式の教会。

グァッシュで描かれた本作は、油彩とは異なる軽やかさがあり、雪景色の白がいっそう際立っています。

画面全体が白を基調としているからこそ、教会や木々、塀や柵を形づくる線の存在が鮮明に浮かび上がり、色彩の時代の作品群の中でもひときわ心を惹かれました。

 

総合評価:★★★☆☆

本展は、ユトリロの画業を時代ごとに丁寧に追いながら、彼が生涯描き続けた作品の意味を考えさせられる展覧会でした。精神の揺らぎや孤独を抱えながらも書き続けられた作品にはどこか寂しさが感じられました。

とりわけ白の時代に見られる表現と、色彩の時代における大胆な色面との対比は、ユトリロという画家の複雑さと奥行きを際立たせていました。